ご挨拶

伝統と創造 ~分野を超えた新時代の健康教育を目指して~

第30回日本健康教育学会学術大会

学会長  小橋 元

(獨協医科大学 副学長)

第30回の節目に当たる本学術大会は,「伝統亡き創造は盲目的であり,創造なき伝統は空虚である」(天野貞祐の言葉)に習い,この30年間の本学会の歩みと我が国における健康教育の発展の歴史を振り返り,未来を語り,繋ぐ機会にしたいと思います.

ポストコロナおよびSociety5.0の新しい社会においては,新しい健康教育の方法・技術が求められるでしょう.たとえば,教育内容(切れ目のないライフコース・リプロダクション教育,DOHaD仮説に基づくプレコンセプション教育,人の一生の基盤となるこころの教育など),教育手段・媒体(Webによる遠隔化,AIの応用等による個別化,動画やゲーミングによる教育,国民のwebリテラシーの向上など),そして研究(生活基盤と緊密に連携したアクションリサーチ・ビッグデータ解析など)と,少し想像しただけでも多くの課題が思いつきます.

しかし,技術が進めば進むほど,こころの問題が浮き彫りになってきています.特に,「幼少期のこころとからだの教育や親のこころの教育」はとても重要です.昨今,児童虐待の痛ましい事件や,青少年による身勝手な事件をよく目にします.多種多様な方向から,多種多様な刺激を受けて育つ子ども達を心身ともに健康に導くことは,社会にとって最大の課題です.三つ子の魂百までといいますが,まさに幼少期の健康教育は一生のものと言えます.

これらの課題に対しては,健康教育の本来あるべき姿であり,その目標ともいえる「ヘルスプロモーション」が有効です.ヘルスプロモーションの展開に必要とされる「人々の主体性発揮のために各個人の能力をつけること」,「政治や経済,文化,環境等も含め広範囲の取り組みを唱導すること」,「保健分野を越えた社会の広い分野の活動や関心を調整すること」こそ,新時代にあらためて私たちが目指すものなのかもしれません.

開催地の獨協医科大学がある壬生町(みぶまち)は,慶応 4 年に日本で最初に女性看病人(看護師)が雇用された歴史のある町です.また壬生には養育するという意味もあります.まさに,保健・福祉と教育・人育てという人生の根幹に関わる健康教育について議論するにふさわしいこの壬生町で,熱く未来を語りましょう.そして多くの分野の連携で健康教育の新時代を担う力を生み出す機会にできれば幸いです.

コロナ感染流行第7波の影響により、7月13日に急遽web開催へ変更することを決定いたしました。「チャンスはピンチの顔をしてやってくる」と言われます。ぜひこのチャンスを生かして、皆様と一層の交流・議論・連携が出来れば嬉しく思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

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