新型コロナウイルス感染症は,世界を一変させました.学校現場も一斉休校中は休業中の子どもたちの対応に追われ,授業再開後は感染対策に駆け回るといったように,以前からは想像もできなかった毎日が続きました.
こういった状況を受けて,一般社団法人日本学校保健学会の第67回学術大会は,開催を1年延期して,2021年11月5日(金)~7日(日)に,愛知学院大学日進キャンパス(愛知県日進市)で開催することになりました.
開催場所は名古屋市の隣の日進市です.日進市は名古屋市や豊田市への通勤や通学が便利なベッドタウンとして人気があり,若者や子どもが多い活気のある街です.近隣の長久手市やみよし市と合わせていくつかの大学があり田園学園としての一角を占めています.今回はその中でも広大なキャンパスを持つ愛知学院大学日進キャンパスでの開催となります.
今回のテーマは,「学校保健,その原点に立ち返る」です.我が国の学校保健活動は明治5年の学制発布と同時に始まりました.当時まず問題になったのは伝染病の予防でした.また,学校環境衛生も問題となり環境や設備が規定されました.さらには,活力検査として健康診断が開始され,健康管理が行われることになりました.これらの展開とともに,学校医,学校看護婦(養護訓導)等の制度が設置されました.その後は保健教育(健康教育)の推進や学校保健法(現学校保健安全法)等の法的整備が進み,組織的にも学校保健活動が強化されていきました.こういった学校保健活動の歴史を振り返ってみますと,感染症対策を中心とした健康管理,安全を含む学校環境整備,そして健康教育が基本と言えます.
近年,児童生徒のいじめや不登校などの心の問題(自殺を含む),発達・発育障害,薬物乱用,アレルギー,小児期からの生活習慣病対策や肥満の問題,あるいは痩身の問題等,子どもたちの健康課題は多様化し,増加していると言われています.実際に学校現場ではこれらの問題が,次々と並行して発生し,その対応に奔走する毎日となっています.こういった状況では,我々はついつい眼の前の問題の対処に気を取られて,本質を見失うことがあります.しかし,学校教育の始まりと同時に学校保健活動が始まったということを忘れてはいけません.学びの原点は健康であり,その活動の主体が我々学校保健関係者です.
学校保健の原点のひとつが感染症(伝染病)対策です.新型コロナウイルスの感染拡大は,改めて感染症対策の重要性を認識することになりました.今回の大会では,特別講演として国立感染症研究所所長の脇田隆字先生に講師をお願いしました.脇田先生は,新型コロナウイルス感染症対策の中心として重責を担っていらっしゃいます.また,学校保健活動の中心が養護教諭ということで愛知教育大学前学長の後藤ひとみ先生にも講師をお願いしました.さらに,教育講演や公開シンポジウム等では,アレルギー,創傷処置,小児期からの生活習慣病対策等の現場の方々に有用な話題を提供できるようにしました.
教育基本法第一条(教育の目的)には,「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」とあります.つまり,教育の目的は心身の健康です.心身の健康があってこそ学ぶことができますし,将来の選択肢も広がってきます.「学校保健,その原点に立ち返る」,もう一度,この意味を参加者といっしょに考えたいと思います.
2020年12月
一般社団法人日本学校保健学会 第67回学術大会
大会長 大澤 功(愛知学院大学教授)